海外安全対策情報(平成29年度第3四半期分)

平成30年1月8日
1.社会・治安情勢
平成27年7月,イランとP5+1(米,英,仏,露,中及び独)との間でイランの核問題に関する最終合意がなされ,平成28年1月に同合意が履行に移されました。他方,イラン国内の経済状況について,インフレ率や失業率はやや改善傾向にはあるものの,依然として高いレベルにあるなど厳しい状況にあります。昨年12月28日,マシュハド市等で物価上昇等に対する抗議集会が発生し,その後テヘラン市内を含むイラン国内各地でも抗議集会が発生して複数の死傷者が出たことから,当該抗議集会の関連動向には引き続き注意が必要です。
また,昨年6月7日には,テヘラン市内の国会事務所建物内及びイマーム・ホメイニ廟周辺において,複数の武装グループによる銃撃や自爆攻撃により18人が死亡,約50人が負傷するISILによるテロ事件が発生しました。同日,内務省は,本件被疑者は殺害され,状況は治安機関のコントロール下にあると発表しました。以後,治安機関は国内各地においてテロリストに対する検挙攻勢を強め,治安の安定化を図っておりますが,引き続き同様のテロ発生への警戒が必要です。
さらに,依然として邦人に対する強盗や窃盗等,一般犯罪の発生も確認されており,イラン国内での行動に当たっては十分に注意が必要です。
治安関連情報等については,当館から必要に応じて注意喚起情報を発出しておりますが,定期的に最新の報道や当館又は外務省海外安全ホームページをご確認いただくなど,自らの安全確保のための情報収集に心掛けてください。
なお,外務省は,昨年12月6日付で海外安全情報「年末年始に海外に渡航・滞在される方へ~テロ・犯罪・感染症対策と「たびレジ」登録のお願い~」(http://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2017C250.html)を発出しておりますのでご一読ください。
 
2.一般犯罪・凶悪犯罪の傾向
(1)概要
イランでは,犯罪件数等に関する統計が公表されていませんが,各種報道に照らしてみると慢性的に一般犯罪が発生しているものと考えられます。邦人に対する主な被害として,強盗(偽警察官による強盗,刃物を使用した強盗等),窃盗(ひったくり,スリ,空き巣等)等の事件が発生しております。最近の一般犯罪に関する報道は以下のとおりです。
・ 昨年10月上旬,タクシーアプリ「スナップ」を利用したイラン人女性が,同タクシーの運転手から暴行を受ける被害が発生した。
・ 同11月8日,テヘラン州警察長官によると,同州において過去48時間で,窃盗・強盗グループ373人が逮捕され,盗難車・バイク200台が押収された。
・ 同11月22日,テヘラン州警察長官によると,同州において過去2週間で,強姦,銃器等所持等の疑いで320人が逮捕された(75人の未成年者を含む)。
・ 同12月19日,テヘラン州警察長官によると,同州において過去2週間で,窃盗・強盗犯人137人が逮捕された。
薬物事犯については,昨年4月9日,麻薬対策庁が,イラン暦旧年中(一昨年3月20日~昨年3月19日)にイラン全国で約705トンの麻薬を押収したと発表しました。また,同年10月21日,イラン警察麻薬対策局のアリ・モアイエディ司令官は,イラン暦本年半年間の麻薬押収量は400トンに上り,前年比で約11%増加したことを明らかにしました。さらに,報道によれば昨年7月時点で,全国で約280万人の麻薬常習者が確認されるなど,薬物情勢に好転の兆しは認められず,麻薬密輸グループの摘発や麻薬類の押収に関する報道は後を絶ちません。
(2)邦人被害事案
第3四半期中,当館において1件の邦人被害を把握しております。
【事例:窃盗(置引き)被害】
  昨年10月20日,被害者(在留邦人)が,自宅の洗濯機の不具合確認のため大家及び管理人を自宅に招き入れた際,玄関近くのテーブルに置いていた腕時計が何者かに窃取された。
     
3.テロ・爆発事件等発生状況
(1)テヘラン市内
昨年6月7日,テヘラン市内の国会事務所建物内及びイマーム・ホメイニ廟周辺において,複数の武装グループによる銃撃や自爆攻撃によるテロ事件が発生し,18人が死亡,約50人が負傷しました。本件に関し,ISILとつながりのあるメディア「アマーク通信」が,ISILによる犯行と主張しました。同日,内務省は,本件被疑者は殺害され,状況は治安機関のコントロール下にあると発表しました。本事件後,治安機関は国内各地においてテロリストに対する検挙攻勢を強め,同年6月24日には,イラン情報省が,テヘランを始めとする国内各地において,コッヅ・デー(6月23日)に係る行事を狙ったテロ攻撃を企図していたISIL関連テロ・グループを解体したと発表しました。
また,抗議デモ・集会の動向として,昨年12月28日には,マシュハド市等で物価上昇等に対する抗議集会が発生し,これに端を発してテヘラン市内を含むイラン国内各地でも抗議・デモ集会が発生し,参加者が治安当局と衝突するなどして複数の死傷者が出ました。引き続き,関連動向には注意が必要です。
(2)南東部パキスタン国境付近(シスタン・バルチスタン州等)
南東部パキスタン国境地域には,「ジェイシュ・アルアドル(「正義の軍隊」の意)」と呼ばれるスンニ派反政府組織等が存在し,同組織らによる政府,治安関係者等に対するテロ,爆発事件が複数件発生しています。同地域においては最近,以下の報道が確認されております。
・ 昨年10月22日付のイラン情報省による声明によると,同省に属するケルマーン州の部隊が,イラン東部南ホラサーン州及びシスタン・バルチスタン州において大量の武器を押収した。押収された武器の内訳は,拳銃2点,AK-47ライフル5点,グレネード・ランチャー1点,RPGロケット・ランチャー6点,SPG-9銃1点,107mmロケット5点,DShKマシンガン用カートリッジ68点及び手榴弾40点。また,当該摘発作戦において,麻薬類500kgも押収され,当局関係者は,本件はテロリストと麻薬密輸との密接な関係を示しているとした。なお,情報省はその数か月前にもシスタン・バルチスタン州サラヴァンにおいて,麻薬密輸グループから大量の武器を押収している。
・ 同10月29日付のイラン警察による発表によると,同警察部隊が28日夜,シスタン・バルチスタン州において,国際的な麻薬組織に属する密売人幹部1人を急襲作戦により逮捕した。
・ 同10月31日付のイラン情報省による発表によると,同省部隊が,ケルマーン州において,シスタン・バルチスタン州の砂漠地帯からイラン国内に侵入した2つの国際的な麻薬密輸組織を捕捉し交戦の末解体させ,密輸人4人を逮捕するとともに,2トン以上の麻薬類及びアサルト・ライフル4丁を押収した。同密輸組織は,煙幕発生装置を備えた車両の先導を得て麻薬類を密輸していたとみられ,当該検挙作戦において,車両5台及び偽造ナンバープレート2点も押収された。
・ 同11月5日付のイラン情報省による発表によると,同省部隊が,シスタン・バルチスタン州において,パキスタンから侵入した国際的な麻薬密輸組織を捕捉し交戦の末解体させ,約2,500kgの麻薬類,車両3台及び通信機器を押収した。
・ 同12月25日早朝,シスタン・バルチスタン州サラヴァン付近の国境地域で,イラン警察国境警備隊と麻薬密輸組織との間で銃撃戦が発生し,指揮に当たっていた警察幹部(副司令官)1人が殉職した。3時間に及ぶ銃撃戦の末,麻薬密輸犯人2人が殺害され,5人が逮捕された。押収した2台の車両から麻薬類約2トンが押収された。
(3)北西部イラク国境付近
北西部イラク国境地域では,「PJAK(クルド自由生活党)」等がクルド人独立民主共和国家の建設を目指し,イラン政府,軍及び治安関係者を標的とした武装襲撃を敢行するなどの動向が見られるほかISIL関連動向も見られます。また,昨年9月25日に実施されたイラク・クルディスタン地域(KRG)における住民投票後,イラク・クルディスタンの分離主義及びイラクと共通の敵であるISILに対応する目的で,イラン・イラク国境付近で両国による共同軍事訓練が実施されたほか,イランとKRGを結ぶ国境施設が一次閉鎖されました。同地域においては最近,以下の報道が確認されております。
・ 昨年10月27日付の革命ガード陸軍ハムゼ・セイエドッショハダー基地の発表によると,25日,西アゼルバイジャン州チャルドラン(Chaldoran。テヘランの北西約860kmの位置)地区に4人組のテロ・グループが侵入して住民2人を殺害したとの情報を得た革命ガードの陸軍部隊が,同テロ・グループと同地で交戦し,テロリスト4人全員を殺害した。同部隊は,解体した同テロ・グループから複数の武器,弾薬及び通信機器を押収した。
・ 同11月3日,西アゼルバイジャン州当局者の発表によると,同日,西アゼルバイジャン州の対トルコ国境地域チャルドラン地区において,イラン警察国境警備隊とテロ・グループPJAKが交戦し,国境警備隊員8人が殺害された。当該交戦において,テロ・グループ側も複数名殺害された。
・ 同12月4日,西アゼルバイジャン州マークーにおいて,イラン警察国境警備隊とPKK(クルド労働者党)武装勢力が交戦し,国境警備隊員1人が死亡,複数名が負傷した。
(4)その他の地域
・ 昨年10月3日の当地ファールス州治安当局の発表によると,同州ダラブにおいて,イスラム暦モハッラム月(注:西暦9月22日から開始)に開催されているシーア派宗教行事を狙った爆弾テロ攻撃を計画していたISIL構成員3人が逮捕された。
・ 同10月9日,アラヴィ情報大臣は,イラン国内において,イスラム暦モハッラム月の宗教行事(注:西暦9月22日から10月1日に開催されたアーシューラー等の宗教行事が該当)を狙ったテロ攻撃を計画していた複数のテロリストが情報省により特定され,それぞれ逮捕されていたことを明らかにした。
・ 同11月5日,ケルマーン州警察の発表によると,同日,同州バム近郊において,警察の部隊が武装した麻薬密輸組織と交戦し,警察官2人が死亡,1人が負傷した。当該交戦の結果,麻薬類約210kgが押収された。
・ 同12月30日にワシントン・ポスト紙等が報じた,フーゼスタン州においてスンニ派反政府組織「アンサール・ル・フォルガン」がパイプラインをテロ攻撃により爆破したと主張していた事案に関し,イラン国営南部石油会社(NISOC)が,当該テロ事案の発生を否定した。
   
4.誘拐・脅迫事件発生情報
(1)誘拐事件
昨年12月31日付の革命ガードの発表として,同年12月14日にシスタン・バルチスタン州ザボール近郊において,身代金目的で誘拐されたイラン人技師1人が,その10日後に革命ガード部隊の作戦により救出されました。当該誘拐に関わった犯人5人が逮捕されました。
(2)脅迫事件
第3四半期中,脅迫事件が発生したとの情報には接していません。
 
5.日本企業の安全に関わる諸問題
現時点,日本企業であることを理由とした脅威は特段認められないものの,特にテロやデモ情勢といった上記治安情勢を考慮しますと,引き続き楽観視できない状況にありますので注意が必要です。冒頭に記載したとおり,定期的に最新の報道や当館又は外務省海外安全ホームページ等をご確認いただくなどして,自らの安全確保のための情報収集を心掛けてください。