海外安全対策情報(令和元年度第4四半期分)

令和2年4月7日
1.社会・治安情勢                                                
 令和元年11月15日,イラン政府がガソリン価格の引上げを発表したことに伴い,イラン各地において,数日間に亘って抗議行動が発生し,一部地域においては,ガソリンスタンド,銀行,政府施設等が襲撃されたと報じられました。イラン政府は,これを受けて,治安回復のための厳しい措置を徹底し,さらに全面的にインターネット接続を遮断するなどして事態の沈静化を図りましたが,国際NGO団体は,一連の抗議行動における死者数は200名を超えると発表するなど,大きな被害が生じた可能性があります。また,マルキャズィ州等のイランの一部地域においては,給与未払問題等の経済問題に端を発した抗議行動も引き続き発生しています。
 イラン国内におけるテロ・襲撃事件については,平成29年6月7日にテヘラン市内の国会事務所建物内及びイマーム・ホメイニ廟周辺において,複数の武装グループによる銃撃や自爆攻撃により18名が死亡,約50名が負傷する事件が発生しました。また,平成30年9月22日には,南西部フーゼスタン州アフヴァーズ市において,軍事パレードに対する銃撃事件(24名が死亡,60名以上が負傷)が発生しました。その後,南東部,南西部含むイランの南部地域においては,襲撃事案等が断続的に発生しており,同年12月6日には南東部シスタン・バルチスタン州チャーバハール市の警察本部に対する自動車爆弾攻撃が発生(治安機関員2名が死亡)し,平成31年2月13日には同州ハーシュ市~ザヘダン市間の道路において,革命ガードのバスに対する自爆攻撃(車両利用)が発生(革命ガード兵27名死亡)するなど,南部地域における治安情勢はやや不安定であり,武装組織・テロ組織と治安機関の戦闘が散発している北西部及び西部含め,今後の同地域におけるテロ・グループの動向を注視する必要があります。
 また,依然として,殺人,強盗,窃盗,性犯罪等の一般犯罪の発生もイラン国内の広い範囲で多々報じられていることから,イラン国内における行動については,十分に注意が必要です。
 さらに,最近のイランをめぐる国際情勢及び新型コロナウイルス(COVID-19)の感染状況についても十分注意が必要です。
 安全関連情報等については,当館から必要に応じて注意喚起情報を発出しておりますが,定期的に最新の報道や当館又は外務省海外安全ホームページをご確認いただくなど,自らの安全確保のための情報収集に心掛けてください。

2.一般犯罪の傾向
(1)概要
 イランでは,犯罪発生件数に関する統計が公表されていませんが,各種報道によると,日常的に一般犯罪が発生しているものと考えられます。邦人に対する主な被害として,強盗(偽警察官による強盗,けん銃及び刃物を使用した強盗等),窃盗(ひったくり,スリ,空き巣,忍込み等)等の事件が発生しております。また,観光客の少ない地方都市において,外国人女性の一人旅を狙った性犯罪が発生していることから,地方都市においては,女性の単独行動は極力控えるなどの注意が必要です。最近の一般犯罪に関する報道は以下のとおりです。
○  1月12日付報道によると,1月上旬の某日午前4時頃,テヘラン市内アーザーディー広場周辺において,イラン人男性が乗客2名が乗ったタクシー(銀色プライド:現地車)を停め,同タクシーに乗車したところ,「殺すぞ」とナイフを首に突きつけられて脅され,現金,携帯電話,ラップトップコンピューター等を強取された。乗客2名は共犯であった。
○  2月18日付報道によると,同16日,夜間シャリアティー通り(テヘラン市北部タジュリーシュ広場からテヘラン市中心部エンゲラーブ通りまでの通り)の裏路地において,一人歩きをしている通行人を刃物で脅し,市民約50名から携帯電話を強取していた強盗犯人3名が逮捕された。犯人は逮捕時,強取した携帯電話4台と刃物2本を携帯していた。
(2)邦人被害事案
 第4四半期中における邦人被害は以下のとおりです。
○  窃盗未遂(すり)
 1月3日午後3時頃,テヘラン市内ミーラーディー・タワー周辺において,日本人観光客が最寄地下鉄駅から同タワーに向けて歩いていたところ,小学生位の子供が近寄り,観光客の手を掴み,ポケット内の財布を窃取しようとした。
○  窃盗(すり)
 1月中旬,当地警察から窃盗犯人の押収品から日本人所有の携帯電話が見つかったとの連絡があったところ,その後,日本人男性がテヘラン市内のバス内で盗難にあったものと判明した。

3.テロ事件等発生状況
(1)テヘラン市内
 テヘラン市内では,平成29年6月7日に発生したISILによるテロ以降,テロ関連事件の発生は報じられていません。
(2)北西部及び西部イラク国境付近
 北西部及び西部イラク国境地域では,クルド人独立国家の建設を目指す「PJAK(クルド自由生活党)」等による治安部隊等を標的としたテロが散発しておりますが,第4四半期中に同地域に係るテロ関連事件の発生は報じられませんでした。
(3)南東部パキスタン国境付近
 南東部パキスタン国境地域には,「ジェイシュ・アルアドル」,「アンサール・ル・フォルガン」と称するバルーチ系スンニ派反政府組織等が存在し,同組織らによる治安部隊等を標的としたテロが散発しておりますが,最近も以下の事件が報じられました。
○  2月22日,シスタン・バルチスタン州ジャキゴール地方において,自爆テロを 企図したテロリスト15名と治安維持軍が交戦となり,同軍隊員2名が死亡した(テ ロリストは逃走)。
○  3月8日,ジェイシュ・アルアドルのオペレーション部隊のリーダーが情報省のオペレーションにより殺害された。同人は,シスタン・バルチスタン州で発生したテロにおいて,鍵となる役割を果たしていた。
(4)南西部
 南西部には,「アル・アフワーズ」と称するアラブ系反政府組織が存在し,過去同組織らによる治安部隊等を標的としたテロが発生していますが,最近も以下の事件が報じられました。
○  1月22日,フーゼスタン州において,バシジの地区司令官が車両で自宅に入ろうとした際,待ち伏せしていたオートバイに乗車した2人組に銃撃されて死亡した。
○  2月25日,フーゼスタン州マーフシャフル市の商店街において,テロリストが銃を乱射し,市民1名が死亡した(同1名負傷)。

4.抗議行動発生状況
 昨年11月15日,イラン政府がガソリン価格の引上げを発表したことに伴い,イラン各地において抗議行動が発生しました。また,イラン各地においては,給与の未払等に抗議する労働者等による抗議行動も散発しております。さらに,本年1月には,イラン政府によるウクライナ航空機誤射公表を受けて,テヘラン市内の大学等において,抗議行動が発生しました。今後,このように発生した抗議行動がテヘラン市内中心部等に飛び火することも考えられますので,抗議行動関連動向には引き続き留意し,決して近寄らないようにすることが必要です。なお,第4四半期には,経済問題に端を発した抗議行動の発生は報じられませんでした。
  
5.誘拐・脅迫事件発生情報
(1)誘拐事件
 第4四半期中,外国人が誘拐事件の対象となったとの情報はありません。
(2)脅迫事件
 第4四半期中,外国人が脅迫事件の対象となったとの情報はありません。

6.日本企業の安全に関わる諸問題
 現時点では,当地における日本企業及び外国企業を対象とした脅威は特段見られません。ただし,上述のとおり,今後イラン各地で発生する抗議行動が,テヘラン中心部に飛び火する可能性は否定できないため,抗議行動関連動向には引き続き留意が必要です。冒頭に記載したとおり,定期的に最新の報道や当館又は外務省海外安全ホームページをご確認いただくなどして,自らの安全確保のための情報収集を心掛けてください。