海外安全対策情報(令和2年度第1四半期分)

令和2年7月5日
 

 

1.社会・治安情勢                                               

令和元年11月15日,イラン政府がガソリン価格の引上げを発表したことに伴い,

イラン各地において,数日間に亘って抗議行動が発生し,一部地域においては,ガソリンスタンド,銀行,政府施設等が襲撃されたと報じられました。イラン政府は,これを受けて,治安回復のための厳しい措置を徹底し,さらに全面的にインターネット接続を遮断するなどして事態の沈静化を図りましたが,イラン政府はこの抗議行動で230名が死亡したと発表するなど,大きな被害が生じました。また,フーゼスタン州等のイランの一部地域においては,給与未払問題等の経済問題に端を発した抗議行動も引き続き発生しています。

イラン国内におけるテロ・襲撃事件については,平成29年6月7日にテヘラン市内の国会事務所建物内及びイマーム・ホメイニ廟周辺において,複数の武装グループによる銃撃や自爆攻撃により18名が死亡,約50名が負傷する事件が発生しました。また,平成30年9月22日には,南西部フーゼスタン州アフヴァーズ市において,軍事パレードに対する銃撃事件(24名が死亡,60名以上が負傷)が発生しました。その後,南東部,南西部含むイランの南部地域においては,襲撃事案等が断続的に発生しており,同年12月6日には南東部シスタン・バルチスタン州チャーバハール市の警察本部に対する自動車爆弾攻撃が発生(治安機関員2名が死亡)し,平成31年2月13日には同州ハーシュ市~ザヘダン市間の道路において,革命ガードのバスに対する自爆攻撃(車両利用)が発生(革命ガード兵27名死亡)するなど,南部地域における治安情勢はやや不安定であり,武装組織・テロ組織と治安機関の戦闘が散発している北西部及び西部含め,今後の同地域におけるテロ・グループの動向を注視する必要があります。

また,依然として,殺人,強盗,窃盗,性犯罪等の一般犯罪の発生もイラン国内の広い範囲で多々報じられていることから,イラン国内における行動については,十分に注意が必要です。

さらに,最近のイランをめぐる国際情勢及び新型コロナウイルス(COVID-19)の感染状況についても十分注意が必要です。

安全関連情報等については,当館から必要に応じて注意喚起情報を発出しておりますが,定期的に最新の報道や当館又は外務省海外安全ホームページをご確認いただくなど,自らの安全確保のための情報収集に心掛けてください。

 

2.一般犯罪の傾向

(1)概要

イランでは,犯罪発生件数に関する統計が公表されていませんが,各種報道によると,日常的に一般犯罪が発生しているものと考えられます。邦人に対する主な被害として,強盗(偽警察官による強盗,けん銃及び刃物を使用した強盗等),窃盗(ひったくり,スリ,空き巣,忍込み等)等の事件が発生しております。また,観光客の少ない地方都市において,外国人女性の一人旅を狙った性犯罪が発生していることから,地方都市においては,女性の単独行動は極力控えるなどの注意が必要です。最近の一般犯罪に関する報道は以下のとおりです。

○ 4月19日付報道によると,同15日,テヘラン市南部アーザーデガーン高速道路(市内からイマームホメイニ国際空港に向かう際に使用する可能性がある高速道路)の道端にナンバーが削られたオートバイ2台を停車させた犯人2名が,同高速道路を通行中の自動車を停めて,オートバイの燃料がなくなったので手伝ってほしい旨申し向け,停車した自動車の運転手が降車するやいなや,同オートバイの運転手2名は,隠れていた別の2名と共に自動車の運転手を刃物で脅し,携帯電話や貴重品を強取した。

○ 5月2日付報道によると,3月9日,テヘラン市南部レイ地区において,若い男が庭付き家屋にボールを投げ,インターホンを鳴らし家人に対し,ボールが庭に入ったから取らせてくれと家人を騙し,門を開けさせた。犯人は刃物で家人を脅し,現金等を強取しようとしたが家人が犯人の意図を見抜き,隣人の協力を得て犯人を拘束して警察に通報した。犯行は午後1時から午後4時までの間に実行された。

(2)邦人被害事案

第1四半期中における邦人被害の報告はありませんでした。

 

3.テロ事件等発生状況

(1)テヘラン市内

テヘラン市内では,平成29年6月7日に発生したISILによるテロ以降,テロ関連事件の発生は報じられていません。

(2)北西部及び西部イラク国境付近

北西部及び西部イラク国境地域では,クルド人独立国家の建設を目指す「PJAK(クルド自由生活党)」等による治安部隊等を標的としたテロが散発しておりますが,最近も以下の事件が報じられました。

○ 5月5日付の報道によると,同日正午,クルディスタン州デヴァンダレの公共の場所において,革命ガード3名が反革命分子と戦闘になり,革命ガード3名は同分子数名を殺害したのちに殉職した。

○ 5月6日付のイラン情報省HPによると,西アゼルバイジャン州及びクルディスタン州において,テロを実行するためにイランに入国した分離主義組織と接点のあるテログループ2つを解体した。計16名が拘束され,カラシニコフ等の武器等が押収された。

○ 5月21日付の報道によると,同19日,クルディスタン州マリヴァンの公共の場所において,同所に所在する革命ガード陸軍基地の兵士が反革命分子2名を殺害した。

○ 5月31日付の報道によると,同29日,クルディスタン州サルダシュトの国境付近において,国境警備兵が武装した者数名と戦闘となり,同警備兵3名が殉職し,武装した者数名が死亡した。

(3)南東部パキスタン国境付近

南東部パキスタン国境地域には,「ジェイシュ・アルアドル」,「アンサール・ル・フォルガン」と称するバルーチ系スンニ派反政府組織等が存在し,同組織らによる治安部隊等を標的としたテロが散発しておりますが,最近も以下の事件が報じられました。

  ○ 4月5日付の報道によると,シスタン・バルチスタン州サラヴァンに所在する基   地所属の国境兵とイラン側への入国を企図した武装集団との戦闘により,バシジ隊   員1名が殉職した。

○ 5月26日付の報道によると,同22日,シスタン・バルチスタン州サルバーズ市警察の警察官2名が武装した者数名と戦闘となり殉職した。

○ 6月30日付の報道によると,同30日,シスタン・バルチスタン州コウリン地区の峠の付近で,革命ガードの車両3台がパトロール中,道路脇に設置されている爆弾2個を発見し,うち1個を無害化したが,別の1個が爆発した。本事件に関し,ジェイシュ・アルアドルが犯行声明を発出した。

(4)南西部

南西部には,「アル・アフワーズ」と称するアラブ系反政府組織が存在し,過去同組織らによる治安部隊等を標的としたテロが発生していますが,最近も以下の事件が報じられました。

○ 5月5日付の報道によると,治安維持軍(イラン警察)は,革命ガード,治安維持軍,宗教学校等に対する銃撃等を実行したとして,アラブ系分離主義組織分子数名を逮捕した。

 

4.抗議行動発生状況

昨年11月15日,イラン政府がガソリン価格の引上げを発表したことに伴い,イラン各地において抗議行動が発生しました。また,本年5月には,ギーラーン州の看護師による給与の未払いに係る抗議行動,同月フーゼスタン州の住民による水不足に係る抗議行動,6月にはフーゼスタン州の砂糖製造会社社員による給与未払い等に係る抗議行動が発生しました。今後,このように地方において発生した抗議行動がテヘラン市を含む各地に飛び火することも考えられますので,抗議行動関連動向には引き続き留意が必要です。

 

5.誘拐・脅迫事件発生情報

(1)誘拐事件

  第1四半期中,外国人が誘拐事件の対象となったとの情報はありません。

(2)脅迫事件

      第1四半期中,外国人が脅迫事件の対象となったとの情報はありません。

 

6.日本企業の安全に関わる諸問題

    現時点では,当地における日本企業及び外国企業を対象とした脅威は特段見られません。ただし,上述のとおり,今後イラン各地で発生する抗議行動が,テヘラン市を含む各地に飛び火する可能性は否定できないため,抗議行動関連動向には引き続き留意が必要です。冒頭に記載したとおり,定期的に最新の報道や当館又は外務省海外安全ホームページをご確認いただくなどして,自らの安全確保のための情報収集を心掛けてください。