領事雑感:「落とし物から生まれた小さな交流」

平成29年7月28日
 皆様は,イランという国にどのようなイメージをお持ちでしょうか?「核問題」,「反米」,「戦争」,「敬虔なイスラム教徒の国で厳しい戒律の中で生活している。」といったイメージを抱く方もいるかもしれませんが,イランで生活している人々の文化を具体的にイメージできる人は,まだまだ少ないのではないかと思います。これは情報の不足によるところもあるかと思いますが,イランの人々の顔がはっきりと見えてこないことが,イランをより遠くに感じてしまう要因になっているのではないかと思います。

 日本を観光などで訪れた外国の方が,日本滞在中に落とし物をして,無事に自分のところに戻り,「日本人はなんて親切な国民なんだろう。」と日本人の誠実な国民性に感動したとの新聞記事を見かけることがあります。しかしながら,私たち日本人が海外旅行に行くと,落とし物はまず返ってこないと考えるのがごく普通ではないかと思います。今回,ある日本人女性がテヘラン観光旅行中に落とし物をされ,その落とし物を巡る顛末をご紹介させていただきます。

 昨年11月に観光でテヘランに訪問された日本人女性が宝石博物館を訪問された際に現金,クレジットカード類を紛失されました。その後,今年の4月に羽田大使夫人が宝石博物館を訪問した際に「日本人の物と思われる落とし物を預かっている。落とし主の連絡先が判らないので,日本大使館を通じて落とし主に返却してほしい。」との依頼が寄せられました。ただ,落とし物から落とし主が日本人であることは確かでしたが,個人情報の保護が妨げとなり,ご本人を特定するまでに非常に苦労いたしました。どうにか落とし主の連絡先が判明し,落とし主に無事返却することができました。

 落とされた日本人女性は非常に感激され,落とし物を受け取った後に在日イラン大使館の領事に直接面会を行い,お礼を述べられたとのことでした。また,拾われた宝石博物館の関係者の方に対しては,日本大使館からお礼状を渡してほしいとの依頼があり,この度,そのお礼状を宝石博物館の関係者の方にお渡しいたしました。宝石博物館の関係者の方は,「これまでにも外国人観光客の落とし物を落とし主に返却したことがあるが,このような形でお礼を受けたことがなかった。」と日本人の誠実な国民性について非常に感心されていたことが印象的でした。

 小さな出来事ではありますが,このような出来事を通じて日本の方がイラン人の国民性を理解し,この小さな積み重ねによって信頼関係の構築や相互理解に少しでもつながってほしいと思います。

在イラン大使館 領事班



(写真提供:IRAN NEWSPAPER)


(写真提供:IRAN NEWSPAPER)