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海外安全対策情報(平成28年度第三四半期分)

1.社会・治安情勢
2013年8月に成立したローハニ政権により,一昨年7月,イランとP5+1(米,英,仏,露,中及び独)との間でイランの核問題に関する最終合意がなされ,昨年1月に同合意が履行に移されました。他方,イラン国内の経済状況については,インフレ率や失業率もやや改善傾向にはあるものの,依然として高いレベルにあるなど厳しい状況にあります。
ISILの動向については,これまでイラン国内における同組織によるテロの発生は見られていないものの,同組織の関係者とされる人物が逮捕された旨の報道が複数確認されております。
こうした状況下,治安面では,一部国境地域を除けばテロによる脅威は少ないものの,依然として邦人に対する強盗や窃盗事件の発生が見られるなど,イラン国内での行動に当たっては十分に注意が必要です。
治安関連情報等については,当館から必要に応じて注意喚起を発出しておりますが,定期的に最新の報道や当館又は外務省海外安全ホームページをご確認いただくなど,自らの安全確保のための情報収集を心掛けてください。
なお,外務省は,昨年12月6日付けで海外安全情報「年末年始に海外に渡航・滞在される方の安全対策のためのお知らせ~テロ・感染症・麻薬犯罪等対策と「たびレジ」による緊急連絡先登録のお願い」(http://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2016C329.html)を発出しておりますのでご一読ください。
 
2.一般犯罪・凶悪犯罪の傾向
(1)概要
イランでは,犯罪件数等に関する統計が公表されていませんが,各種報道に照らしてみると慢性的に一般犯罪は発生しているものと考えられます。邦人に対する主な被害として,強盗(偽警察官による強盗,刃物使用のスマートフォン等携帯端末を狙った強盗,睡眠薬強盗等),窃盗(ひったくり,スリ等)等の事件が発生しております。最近の一般犯罪に関する報道は以下のとおりです。
・ 昨年10月4日付テヘラン州警察ホセイン・サッジェディニア長官の発表によると, イラン暦本年(1395年)上半期中(昨年3月20日~9月21日),テヘラン州内において前年同期比で,窃盗の発生件数が12%,殺人の発生件数が21%,強盗の発生件数が16%,誘拐の発生件数が55%,強盗強姦の発生件数が11%,それぞれ減少した。
・ 同11月13日,イラン警察長官によると,イラン暦本年上半期に刃物使用の喧嘩により36人が殺害された。
・ 同11月15日,ギーラーン州当局の発表によると,同州ラシュトにおいて殺人犯1人及び麻薬密輸人2人が処刑された。
・ 同11月29日,チャハールマハールバクティアリ州警察長官によると,同州で誘拐犯人が逮捕され,誘拐されていた8歳と3歳の子供が解放された。
・ 同12月19日夕方,テヘラン市西部(ヤース地区及びラフアーハン地区)において,強盗事件が立て続けに5件発生した(犯人は逮捕)。
・ 同12月22日,ケルマーン州バム郡ジャハンアバッド村で男が銃を乱射し,親族10人を殺害した。家庭内問題が動機とみられる(犯人は逮捕)。
また,薬物事犯については,昨年6月21日,イラン内務大臣が「イラン暦旧年(1394年)中に約618トンの麻薬を押収,2,522回の摘発作戦により3,017の麻薬密輸グループを解体,220箇所以上の覚醒剤密造拠点を解体した。」と発表しました。同4月23日には,イラン法医局が,同旧年中にイラン全国で死亡した麻薬中毒者数は3,000人以上に上り前年比で0.6%増加したと発表するなど,薬物情勢に好転の兆しは認められず,麻薬密輸グループの摘発や麻薬類の押収に関する報道は後を絶ちません。
(2)邦人被害事案
第3四半期中,当館において3件の邦人被害を把握しております。
【事例①:窃盗(スリ)被害】
昨年10月16日,被害者がテヘラン市内のバザールにおいて,タクシーに乗車する直前に複数のイラン人から声を掛けられ,体を触られた際にズボンのポケットに入れていたスマートフォンを窃取された。
【事例②:窃盗(空き巣)被害】
同10月30日,テヘラン市内の被害者宅(不在中)の玄関から犯人が侵入し,寝室クローゼット内に保管されていた多額の現金等が窃取された。

3.テロ・爆発事件発生状況
(1)テヘラン市内
第3四半期中,テヘラン市内におけるテロ・爆弾事件発生の情報には接していません。
(2)南東部パキスタン国境付近(シスタン・バルチスタン州等)
同地域には,スンニ派テロ組織「ジュンドッラー(「神の軍」の意)」のほか,「ジェイシュ・アルアドル(「正義の軍隊)」の意」と呼ばれるスンニ派の反政府組織等が存在し,同組織らによる政府関係者,治安関係者のほか,一般市民に対するテロ,爆発事件が頻発しています。
なお,同州地域においては最近,以下の報道が確認されております。
・ 昨年12月11日朝,イラン南東部のシスタン・バルチスタン州サラヴァン近くのコウハク(当館注:Kouhak。隣国パキスタン国境に近い街)付近において,路肩の爆弾が爆発し,革命ガード隊員2人が負傷した。
・ 同12月19日付のイラン革命ガードの発表によれば,イラン南東部のシスタン・バルチスタン州サラヴァン(隣国パキスタンとの国境地域)付近において,革命ガードとスンニ派武装グループとの間で戦闘が発生し,その際に自動車爆弾が爆発,革命ガード隊員1人が死亡,1人が負傷(重体)した。
(3)北西部イラク国境付近
同地域では,「PJAK(クルド自由生命党)」がクルド人独立民主共和国家の建設を目指し,イラン政府,軍及び治安関係者を標的とした武装襲撃を敢行するなどの動向が見られるほか,ISIL関連動向も見られます。最近も以下の報道が確認されております。
・ 昨年10月4日,パークプール革命ガード陸軍司令官は,西部ケルマンシャー州の同軍ナジャフ・アシュラフ基地に属する治安部隊が,同州国境からイラン国内への侵入を試みていたテロ・グループを地元住民の協力を得て捕捉し,掃討作戦により同グループに属する12人全員を殺害したことを明らかにした。
・ 同10月10日付国営通信によると,イラン西部クルディスタン州マリヴァン市ゴルチ地区に所在する革命ガード基地が,テロ・グループ(注:反革命勢力と呼称)の襲撃にあったものの,革命ガード側が反撃し,同テロリストらを制圧した。当該作戦により,RPGを含む多数の武器,弾薬等が押収された。
・ 同11月27日,アラヴィ情報大臣は,治安部隊が,アブ・アイシャ・アル・クルディ(Abu Aisha Al-Kurdi)を含む複数のISIL構成員を国境地域において殺害したことを明らかにした。同構成員らはイランへの侵入を試み,テヘランにおけるテロ行為を企図していたとされる。
・ 同12月7日,イラン内務省のホセイン・ゾルファガリ治安・法執行担当次官は,治安部隊が同国西部のイラクとの国境地域において,イラクから越境してきたISILと関連を有するテロリスト3人を殺害し,同人らで構成されたグループを解体したことを明らかにした。同グループは,イラン国内での破壊活動を企図していたとされる。
(4)その他の地域
・ 昨年10月11日,ファールス州におけるシーア派宗教行事アーシュラーに係る集会を狙ったテロ攻撃を企図していたISIL構成員11人が,情報省の作戦により検挙され,100kg以上の爆発物等を押収した。
・ 同11月15日,シャフィイー情報省国家安全保障戦略研究担当次官は,「国民の協力の結果,セムナーン州ギャルムサールにおいて,約2トンの爆発物が発見された」と述べた。
・ 同12月30日,ホラサーンラザヴィ州タイバードにおいて,国境警備隊と武装窃盗グループとの間で銃撃戦が発生し,国境警備隊員2人が殺害された。
なお,イランのラフマーニファズリ内務大臣は,昨年8月24日,イラン国内及びその国境地域は軍を始めとする治安機関による完全なコントロール下にあり,現時点,脅威はないと述べたほか,12月24日にはジャアファリ革命ガード総司令官が,イラン国内及び国境地域においては安全が確保できていると述べています。

4.誘拐・脅迫事件発生情報
(1)誘拐事件
・ 昨年8月28日,ケルマーン州検察当局によると,同州で身代金を目当てとする誘拐グループが摘発され,同グループの構成員7人が逮捕,誘拐されていた13人が解放された。
・ 同11月29日,チャハールマハールバクティアリ州警察長官によると,同州で誘拐犯人が逮捕され,誘拐されていた8歳と3歳の子供が解放された。
(2)脅迫事件
第3四半期中,脅迫事件が発生したとの情報には接していません。

5.日本企業の安全に関わる諸問題
現時点,日本企業であることを理由とした脅威は特段認められないものの,上記治安情勢を考慮しますと,引き続き楽観視できない状況にありますので注意が必要です。冒頭に記載したとおり,定期的に最新の報道や外務省海外安全ホームページ等をご確認いただくなど,常日頃から自らの安全確保のための情報収集を心掛けてください。